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特別賞作品 愛知県:坂上誠さん
故郷たずねて三軒目
「どういったお部屋をお探しでしょうか?」僕は身を乗り出して、机の上に置かれた地図の一点を指で叩いた。「ここ。ここからできるだけ近く!」不動産屋のおじさんは驚いて目が点になった。無理も無い。僕が指したのは人気のある駅近くの南側エリアではない。駅から離れた北側にある『ただのアパート』だ。それも現在取り壊している最中の。でも、僕にとっては『ただのアパート』なんてもんじゃない。
僕は父の仕事の都合で多くの引越しをした。東京で生まれた僕は幼稚園の頃には大阪、小学校に上がるとまた東京、その次は名古屋といった具合に高校を卒業するまでに平均して2年ごと、合わせて7回もの引越しを経験した。そんな僕にとって唯一長く、そして思春期の5年間を過ごした名古屋のアパートこそ帰るべき故郷だったのだ。しかし、取り壊されてもう住むことはできない以上、できるだけ近くに住みたかったのだ。
珍しい条件のせいか、2軒の不動産屋さんで空振りに終わった。どちらのお店も駅近くの南側にある家賃、間取りなど『客観的条件』の優れた部屋を熱心に勧めてくれた。僕にとってはそのアパートの近く、という『主観的条件』が全てなのに!翌日は大学の卒業式。今日中に部屋を決めて東京に戻らなければならない。祈るような気持ちで3軒目の不動産屋さんへ入った。応対に出た元気の良い青年店員は初めて親身に僕の話を聞いてくれた。そして聞き終わると確信を込め「ぴったりのお部屋があります」と笑顔で言ってくれた。案内してくれた部屋は本当にぴったりだった。前に住んでいたアパートと50メートルも離れておらず、ベランダに出ると懐かしい景色が僕を出迎えてくれた。すぐに部屋の方へ振り返り不動産屋さんに感謝した。「最高です。おかげで故郷に帰って来られました!」








