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特別賞作品 東京都:汐野満月からさん
再スタート
誰にも相談せず、独りで離婚を決めた。元夫との話し合いが穏やかなものであったためなんだか拍子抜けしたような心境でいたが、新居探しの段になって、保証人の手当てをどうしても避けられないとわかって現実に引き戻された。
私は一ヶ月前に正社員の仕事をやめ、アルバイトを始めたばかり。父もまた前年に、勤め上げた会社を辞めフリーランスとして再スタートを切ったところ、つまり収入が不安定だった。どうしたものか。多くの友人が保証人役を買って出てくれたが相談した不動産屋に友人関係では断られた。
そこで初めて、地方に住む両親に離婚の事実と新居の問題を打ち明けた。電話の向こうで絶句していた。数日後の金曜日、アルバイト中に父から電話がかかってきた。明日東京に行く。一緒に不動産屋に行こう。力強い声が逆に私の気負いを和らげた。4件目に覗いた不動産屋で、候補物件をすぐ見せてもらえることになった。小狭いがさっぱりと綺麗で、シャッターが付いているのが女の一人暮らしの上で安心だと決め手になった。帰りの車中で契約について話が進むが、まだ離婚の傷が癒えない私と、それに気遣う父、どうにも歯切れが悪くなる話題がある。どうしてもかみ合わない。後部座席で、父の顔を見た。困ったような笑ったような、なんともいえない表情。担当者が女性ということもあって、私が実はですね、と状況を白状した。一瞬驚かれたが、不動産屋には色々な事情を抱えた人が飛び込んでくるんですよ、とやさしい返事が返ってきた。そして、どんなに所得が不安定だとしても、両親に勝る保証は無いのですよ、とも。事務所で契約書にサインをした。駆け出しフリーランスの父は職業欄に照れながら「作家」と書き、娘の再スタートを切ってくれた。








