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住まい探し体験記

優秀賞受賞作品 東京都:Sachiyoさん

部屋探しは自分探し

何となく母とけんかをして、売り言葉に買い言葉で「こんな家、出て行ってやる」と捨て台詞を吐いたのが、確か二十八歳ごろのことだったと思う。すぐにクールダウンして、実家のぬくぬくとした生活に戻ったのはいいが、それでも言ってしまった以上、たとえポーズでも部屋探しをして、「私を怒らせると、すぐに家を出ていくよ」という態度を母に見せねばならなかった。

そこで、とある沿線の不動産屋に飛び込んでみた。あてずっぽうである。そこの女主人は私を見て、「どうして一人で暮らしたいの?」と聞く。そんな質問は想定外だったので、私は本当のことを口にしてしまった。「母とケンカして…」 女主人はふふん、と笑い、幾つかの物件を出してくれた。そして、一枚のチラシを示し、「この部屋を、今すぐに見に行きなさい。そして見たら、ここに決めなさい」迫力に押されるように部屋を見に行った。

ロフト付きワンルーム、ユニットバス、電気コンロ一つ。家賃は確か、七万円台だった。 私は呆然と、部屋の真ん中に立った。いいのか悪いのか、分からなかったのだ。私はどんな部屋に住みたいのか、どんな暮らしがしたいのか、全く分かっていなかった。それはそのまま、当時の自分の生き方を暗示してもいた。本当に親から自立したいのか、仕事はどうこなしていくのか、結婚は? ライフスタイルというものが、恥ずかしいことに私には全く無かったのである。そんな自分に、一日の半分以上を過ごす部屋を決められるわけがない。女主人はそこを見透かしていたのだ。やられた、と思った。

私が一人暮らしを始めるのは、それから三年後のことである。部屋の条件は箇条書きにして十項目あった。日当たりの良い部屋がすぐに決まった。